I am a Healer – Chapter 9

(Labyrinth of Mel Hertz)
I was advancing through the maze with Yuel, we were aiming for the seventh stratum.

As we approached the middle of the fifth stratum–

「Master!」

On the cry of Yuel, I looked ahead.

The first demon we encountered was a large chicken known as a “Big Chick”. It’s size was around the chest height of an ordinary adult.

There were four of them. The power of their beaks is no laughing matter, one lunge can easily tear through meat. Also, the adventuring guild advises you stay cautious of their charge attack.

That charge is so troublesome. It’s quick on it’s feet, but since it’s a chicken, it can’t fly. Moreover, the charge never seems to aim for Yuel at the front, more often than not, it comes towards me at the back instead. I guess it helps that it’s movement is generally in a straight line, because of this I can choose to be either evasive or defensive against it. It would be bad otherwise.

By the way, I don’t even consider attacking. Every man has his strong point. Yuel’s is combat. With my skills, it’s likely I’ll be counter attacked, whilst trying to attack. If I avoid them and just endure until Yuel comes to help, then I should walk away with just a few grazes.

Even if I successfully parry, I feel like avoiding it early is better.

The reason being is that I’m currently running. My mace is clenched in my hands as I dodge left and right. Looking at it carefully, it’s not very difficult to dodge such linear movement. However, I got a little scared, since this is my first real demon battle.

I manage to avoid the rush of the big chick again, it’s pretty imposing. There is no damage, but I stumble a little.

「Aaaaaa!」

Yuel sees that and screams.

By the time I regain my posture, Yuel has already defeated the other three. Yuel turns around to face the big chick that caused me to stagger and begins to rush at it angrily. The neck of the big chick was completely torn, one knife was stabbed in its chest, whilst two knives were stabbed in it’s head from the left and right.

Thorough. It’s clearly overkill. The knives are probably ruined. Yuel’s a little scary.

The big chick turns into particles of light and disappears. However, Yuel did not come over here. Usually she comes running over shouting「Master, I did it!」excitedly.

As I walk towards Yuel, she looks downwards and begins to speak.

「I’m sorry master, I said I would protect you with my life. But I allowed you to get hurt」

I think she said something like that on the first day. I’ll be troubled if she doesn’t value her life more. I’m not even injured.

「No, having Yuel protect me is enough. I was only grazed slightly this time anyway」

「But, but, I decided to protect master」

That big chick has apparently trampled Yuel’s pride. Yuel is only one person, yet she can easily defeat 4 rushing demons. Speaking in terms of shogi, it’s like 4 lances aiming at a king side by side. Thinking like that, it’s excellent that Yuel can attract and defeat 3 of them.

It was me who had rushed to the fifth stratum to get the slime jelly. When thinking like that, it’s no surprise I couldn’t dodge an attack like that. Listening to the cries of Yuel, my sense of guilt rises exponentially.

Oh, what should I do? Yuel is crying with both hands covering her eyes. Painful. Really painful. I want to see Yuel smiling. Yuel, who always runs up to me with a smiling face as I stroke her head. Whenever I cast a healing spell, she’d always look at it with respect. I’d like to continue like that for a while.

However, this is Yuel’s own problem. Yuel always says she’ll protect me, yet she didn’t. This is surely a problem. But that’s in the past, it can’t be changed. It’s helpless. When you lose confidence in your own power, you can only get it back yourself. This is a problem that won’t go away even if her head is stroked, even if words are used.

まぁ撫でるか撫でないかって言ったら撫でるんだけど。

ユエルの心を晴らす上手い言葉なんて浮かんで来ないし、俺には頭を撫でることぐらいしかできない。
慰めるのは苦手だ。
俺が慰められるのは、せいぜい自分の息子さんぐらいだろう。

「ユエル」

声をかけると、ビクリ、と身体を震わせる。
これは重症だ。
俺の怪我はかすり傷、というか傷にさえなっていないのに。

撫でるぐらいしかできないけれど、少しでも、ユエルの気持ちを晴らしてあげられるだろうか。

ユエルの頭の上に手を置く。
けれど、いつものような、自分から頭を擦り付けてくるような動きはない。
気落ちしているからだろう。
私は撫でられる資格なんてない、みたいなことでも考えているのかもしれない。
ありそうだ。
打てば響く、撫でれば微笑む、そんなコミュニケーションが楽しかったんだけれど。

頭の中心から、なだらかな頭のラインに沿ってじっくりと、じっくりと手を下ろしていく。
今までの経験からして、多分ユエルは髪の表面を軽く優しく撫でられるより、頭皮に手のひらの熱が伝わるぐらい、じっくりと撫でられる方が好きだ。
なんだかそっちの方がユエルの表情が幸せそうだったような気がするし、年齢的にも奴隷という境遇的にもユエルは人肌の温もりに飢えているような、そんな気がする。

左手をユエルの背中に添えながら、右手をゆっくり、ゆっくりと上下させる。
けれど、ユエルの表情は未だ暗い。
まだ笑顔を取り戻すには足りない、ということか。

右手の撫ではそのまま続けつつ、左手を持ち上げる。
自由になった左手を、しょんぼりと垂れたユエルのエルフ耳に添える。
普段はピンと尖って元気そうなのに。
ユエルの表情を観察しつつ、ユエルが喜ぶ撫でポイントを探そうと、柔らかな耳をやわやわと揉み込んでいく。

「ふっ……んっ……」

浅い吐息が漏れた。
ここだ。

ユエルが反応したポイントを左手で重点的に撫で擦り、それに合わせて右手の撫でを強くしていく。

「んんっ……」

ユエルの額が、僅かに汗でしっとりとする程度まで撫で続け、右耳をしっかりと揉みほぐしたら、今度は左右の手を入れ替える。

なんだかユエルの表情が僅かに紅潮し、悲しみの色が抜けてきたように見える。
だが、あのはにかむような笑顔を取り戻すにはまだ足りないようだ。

頭の撫でを一旦止め、今度は両耳を両手で同時に揉み解す。
人間の耳より少しだけ柔らかいエルフ耳の軟骨を、指できゅっと挟みこみ、内側をこちょこちょとくすぐり、全体に手のひらの熱を伝えるように優しく包みこみ、先端をやわやわと伸ばしていく。

「ふぁ……んっ……やっ……あぁっ……」

耳を撫で続ける。
撫で続けるが。

なんだかいつもとユエルの表情が違う気がする。
これは、なんていうか。

はにかむというか、とろけていると言った方が正しい。

これじゃない。
違うんだ。
俺が見たいのはユエルのこの表情じゃない。
もっと、なんていうか、癒される感じの笑顔なんだ。
こんなとろっとろの背徳感溢れる表情じゃない。
そういえば、今ユエルを撫でている右手は昨日トイレで――

いけない。
考えてはいけない。

そうだ、やはり間違っている気がする。

一旦止めようと、両手を離す。

「あっ……」

悲しそうな声をあげ、再び暗くなるユエルの表情。

一目見てわかる。
きっと、この表情は「不安」だ。

俺はユエルの身体に手を出さないし、ユエルには初日に、短剣術を使えるからお前を買ったと言った。
だからこそ、戦闘にこそ自分の奴隷としての価値を求めていただろうユエル。
そして、戦闘で役に立っているという矜持を、さっき、崩された。

そんなユエルの表情は、まさに親に突き放され、置いていかれた子供そのものだ。

耳から手を離されて「不安」を感じているのだ。

あの、可愛らしいユエルが。
こんなにも辛そうな顔をして。

見ているだけで胸が締め付けられるような気持ちになる。

できない。

不味い。
止められなくなった。

仕方なく、ユエルの両耳に手を戻す。

「ん……」

おぉ。
ちょっとはにかんだ。
やはり間違って無かったのか。
俺の全力が実を結んだ瞬間だ。
耳を撫でる俺の手に、愛おしむように指を這わせるユエル。
戻ってきた。
ユエルに積極性が戻ってきたのだ。
続行だ。

ユエルの正面にしゃがみ込み、表情を注視しながら両手をユエルの頬に添える。
潤んだ眦を、親指で撫でる。
涙袋を優しく伸ばすようにそっとなぞる。
頬骨のラインに沿って、頬肉をゆっくりと揉み込んでいく。

「んん……」

顔の紅潮が強くなるが、自分の手を重ねるようにして俺の手を挟み込むユエル。
積極的になっている。
つまりは撫でられる資格が無い、なんていう気持ちはもうどこかへいってしまったということだ。

正しかった。
俺は間違ったことはしていなかった。

頬肉を親指で強めに撫でながらも、他の指を遊ばせたりはしない。
小指と薬指でユエルの顎のラインをしっかりとホールドし、人差し指と中指で、耳の内側をくすぐるように撫でさする。

「ひっ……あっ……んぅっ……」

ユエルがピクリと震える。
そのままユエルの頬を撫でながら――

ふと、ユエルの背中の向こうに影が見えた。

魔物が来た。

まぁ、こんな迷宮の中でこれだけの時間をかけていたら当然かもしれない。

「ユエル、ビッグチック、一匹だ」

ユエルの表情が、一気に引き締まった顔に切り替わる。
いや、引き締まった顔というよりも、邪魔をされて怒った顔といった方が正しいかもしれない。

ナイフを抜き、ビッグチックの突進に真っ直ぐ、正面からぶつかるように突き進むユエル。
衝突の寸前、ビッグチックを闘牛士のようにひらりと躱す。
そして避けざまに首に向けてナイフを振り抜くユエル。
血を吹き、走りながら崩れ落ちるビッグチック。

ドロップを回収したユエルが、先程の続きをねだるように寄って来る。
僅かに遠慮があるようにも見えるが、その表情には確かな期待の色が混じっている。
もちろん撫でる。

ユエルは撫でれば大丈夫だった。
持ち直した。
やはりまだまだ子供だということだろう。
あとは、ユエルの顔に一切の遠慮が浮かばなくなるまでこれを繰り返せば良い。

「そろそろ帰ろうか、ユエル」

「はい、ご主人様!」

俺の言葉に、ユエルははにかむような笑顔を浮かべて、元気に返事を返してくれた。

俺達は街に戻り、装備を買う事にした。

ユエルが、投げナイフが欲しいと言ったのだ。
ユエル曰く、投げナイフが沢山あれば、今回俺を守れたかもしれない、とのことだ。

そういえば前に、ゴブリンをナイフの一投で倒していた気がする。
スキルの恩恵か、かなりの威力があった。
それに、もう一度ビッグチック四匹相手に俺を守ることができれば、ユエルも自信を持つかもしれない。
それはユエルの笑顔に繋がるだろう。
投げナイフがあればそれが出来ると言うのであれば、買わない手はない。

幸い治療所と冒険者のふたつの収入源のおかげで、懐には余裕がある。

ユエルには投擲用のナイフを四本と、今ユエルが持っているものよりも僅かに長く、実用性の高い名匠の弟子が作ったというナイフを二本買った。
ほぼ素寒貧に戻ってしまったが、ユエルはこれで複数の敵が来ても大丈夫だ、とのこと。

ユエルがナイフ砲台になる日も、近いかもしれない。