I can speak with animals and demons – Chapter 8

あの後、俺は馬のカン吉とチャラ馬に拘束された。具体的にはふかふかの草の上で俺は座り、カン吉達は横になっている状態。なんかいつでも蹴りが飛んできそうなのが怖い。

『はあー、やっぱりここが落ち着くわー』

『ほんとそれそれ!』

「ここがお気に入りの場所なの?」

俺が疑問を口にすると、カン吉は蹄で地面をちょいちょいと指す。

『見ろよ、このふかふかの草。ここは他の辺りの草と比べて質がいいんだぜ?』

『そうそう。他の所にもこういうスペースを確保している場所があっけど、ここが一番っしょ』

「へー、そうなんだ」

『ここなら安心して横になれるんだよ』

カン吉は現在も気持ちが良さそうに、つぶらな瞳を閉じる。

「あ、確か馬って立ったままでも寝られるんだけど、安全で安心できる場所なら横になるって聞いたことがあるよ」

『そうそうお前わかってんなぁ。やっぱし、安心できる場所じゃないと横になんてなれないっしょ!』

『まあ、人間も座りながらでも寝れるけど、家で横になって寝る方がいいだろ』

「うん、ベッドで横になる方が断然いいや」

今こうして馬と対話している自分なのだが、他人から見るとやはり馬に語りかける痛い子に見えてしまうのであろうか。

もはやこうして会話を交わして動くことで、対話できるという事を疑うことは無い。

今まで聞こえていた声も全て動物だったのであろう。屋敷の天井から聞こえていた声は、きっとネズミか何かだろう。

他の動物とは会話を交わしておらず、一方的に俺が聞いていただけなので確信ではないが、俺は確かに動物と話せるのであろう。

こんな事になった理由は一つしか思い浮かばない。

女神メリアリナ様に貰った『全言語理解』という能力。

これしかない。もしこれに動物の言葉が含まれていたのならば、というより今の状態を見る限り、含まれているのであろう。

どんな場所でも異世界でも苦労せず、前世のような間違いを起こさないように貰ったの物が、まさかこのような事態を起こすとは。

『おい、聞いているのかジェド?』

「あ、ごめん。少し考え事をしていた」

『考え事って何だよ?』

カン吉は器用にも眉の部分をくいっと持ち上げる。ほんの小さな動作で近くで見ないと分からないのだが、実に人間臭い動作だ。

「俺は、本当に動物と対話できるんだなって」

どうやら、俺は動物と対話をする事ができる。それは今日一日で理解した事であった。しかし、それを理解したとはいえ、不安は拭えない。

カン吉は俺の瞳をのぞき込んだ。真っすぐに俺を映しこむ曇りのない茶色と黒色の瞳は、俺の心の不安を見透かしているように思えた。

じっくりと俺を見つめた後、カン吉は「ふう」と一息を付くような仕草をすると穏やかな声で語りだす。

『ああ、そうだな。今まで俺達の言葉を理解できる人間がいるだなんて、想像すらして無かったよ』

『ほんとほんと! 俺も人間が喋るだなんて想像もしてなかったわぁ』

「カン吉達は俺の事を変だと思わないの?」

「変? 何でそう思うんだ?」

「そうそう! まじ人間と友達になれるとかやべえわ! 何かいけてるって感じ?」

明るく声を出すチャラ馬だが、カン吉は眉を少しひそめて非難がましい視線をおくる。

『おい、カープ。そういう言い方はやめろよ』

『えっ? 何かまずかった系?』

キョトンとした様子のチャラ馬。名前カープっていうんだね。

『そういうジェドという個人を見ていないような発言は好きじゃねえ』

『そうかもしんねえ。ごめんよ、ジェド』

カープはしゅんと長い首を下げて謝る。そのつぶらな瞳のせいか余計に落ち込んでいる様子がわかる。

「いや、いいよ。カープが俺を元気づけようとしてくれて言ったのはわかっているから」

こういうのは日本人が、外国人の友達が欲しい。という事と似ているような気がする。

確かに『外国人だからと言って友達になろう!』『友達にいるとかっこいい!』などと言われると、外国人ならば誰でもいいのでは? 俺の事なんて見てくれていないのではと思ってしまう事であろう。

外国人の友達に聞いたことがある。

外へと出かける度に『あ! 外人だ!』と指を指されたり、ひそひそとした声が聞こえ、疎外感を感じてしまうのだと。

この世界では俺が動物達にそう囁かれたりする事になるのだろう。

『ジェド君ほんと良い奴だわー』

……少しカープは軽すぎる気がする。

『まあ、少なくとも俺達は変とは思わねえよ。逆にジェドが俺達と何だかんだ話をしてくれる事に驚きだよ。ジェドは俺達を受け入れてくれたんだ。俺達も俺を受け入れるさ』

「……カン吉」

やばい。なんか涙が出てきそうだ。こんな親身になってくれるだなんて。カン吉の器はなんて広いんだろう。きっとこの平原にも収まらないくらいの器だ。馬にしておくのが勿体ないくらいのオスだよ。本当に。

俺は少し潤んだ瞳から、滴を零さないようにして精一杯笑った。

「カン吉、カープ……ありがとう」

『おうよ。何かあったらいつでも頼れよな!』

『そうそう! いつでも歓迎するっしょ!』

この日、俺は二頭の親友を得たのだった。

×      ×      ×

『おいおい、アイツ俺達の言葉がわかるらしいぜ?』

『本当かよ。それ誰情報?』

『あん? 確かカープがそう言っていたぜ?』

『カープぅ? それデマじゃない?』

俺とカン吉達が話し合っているうちに、ジュリア姉さんの方の用事は終わり、帰り道。

夕日に照らされて、木々や土がほのかに茜色へと染まる。

そんな中。一本道に沿うように並んだ木々からは複数もの声が聞こえてくる。

そこへ視線を向けると、枝にちょこんと止まっている二羽の青い鳥。

何だか、こうして歩いている間、常に誰かから見られているような感じがする。それも珍獣か何かを見ているような、遠慮の無い視線。

それは悪意、善意問わず、チクチクと俺の肌を刺してくる。

外国人はこんな気持ちで日本を過ごしていたのであろうか。これでは、どこに行っても落ち着くことはでき無さそうだ。

まあ、アスマ村近辺でこうして過ごしていくうちに、慣れていくのだろう。

それにしてもカープ。言いふらすのが早くない? さっきまでの会話が台無しだよ。感動を返してほしいね。

『なあ、お前。声かけてみろよ』

『ええー。恥ずかしいだろーが。変な鳥だと思われたらどうするんだよ』

「乙女か!」

『『ええっ!?』』

「……どうしたのジェド君? 急に叫び出したりしちゃって」

しまった! あまりにもおかしい鳥の会話に突っ込みを入れてしまった。

ジュリア姉さんから見れば、俺が突然森へと叫んだようにしか見えない。これはいけない。危ない子だと思われてしまう。

隣を見上げれば、戸惑った様子のジュリア姉さんが俺を見ている。

『……今、あの人間俺達に突っ込み入れたよな?』

『気のせいじゃないか?』

『どうする? やっぱり声かけてみっか?』

『ええー? どうしよっかなー?』

俺達の空気が少し怪しくなった現在も、鳥達はきゃいきゃいと女子高生のようにはしゃぐ。

「な、何でもないよ。あはは……」

俺は何とか笑顔を作りつつ、ジュリア姉さんに渇いた声で返事をする。

これで何とか誤魔化せないであろうか。

「そうなの? 何かあったらお姉ちゃんに相談するのよ?」

だ、駄目だ。めちゃくちゃ気を使われているわ。

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